コロナ禍で注目されたインサイドセールス

2020年から始まったコロナ禍によって、今までどおりの顧客訪問を中心とした営業活動ができなくなり、内勤で営業活動を行うインサイドセールスに注目が集まりました。

以前に私が在籍していたメーカーでは、10年以上前からインサイドセールスという組織を置いていました。 インサイドセールスとは何か、どうやって組織の中でインサイドセールスが立ち上がったか、インサイドセールスに求められることなどについて、ご紹介します。

インサイドセールスは何をするセールスなのか

インサイドセールスは主に1つの商談が長いB2Bビジネスでおかれる職種で、大きく2つの機能があり、求められるスキルが異なっています。

引き合いのクレンジング機能重視の場合

インサイドセールスは外に出ず、メールや電話で商談を進めますが、やってきた引き合いに確実にコンタクトし、有望な商談を逃さずキャッチする機能に重点を置いていた場合、コンタクトの数を増やす代わりに1つ1つのコンタクトに(できたほうが良いですが)深い商談は求められません。 この場合、社内で上司や先輩に細かく指示や確認を仰ぎながら仕事を進められるため、経験の少ない若手でも仕事を始めやすく、インサイドセールスはフィールド営業の登竜門としてのポジションでもあると言えます。

ナーチャリング機能重視の場合

入ってきた問い合わせを育てて、クロージングが近づいてきたら営業担当者にバトンタッチしていく、ということもインサイドセールスに求められる機能です。 引き合いをクレンジングする機能では短時間でできるだけ多くの引き合いからホットな商談を見つけて、営業担当者に渡していく必要がありますが、インサイドセールスでナーチャリング機能を重視する場合には、この後に引き合いをナーチャリング(=育成)する大仕事を行うので、むしろ営業出身で商品知識も十分にあり、場数も踏んだベテランが担当したほうが効率的であると言えます。

実際のインサイドセールスの人たちも、もともと引き合いのクレンジング機能重視で動いていたはずなのに、一部からナーチャリング能力に不満を持たれてしまっていたので、どちらを重要と考えているかは会社としてはっきりさせておく必要がありそうです。

12年前は誰も知らなかった

初めてインサイドセールス組織がおかれた時、日本にはインサイドセールスという職種は認識されておらず、日本語のビジネス本などにも記載されていなかったので、本人たちも周りもどういうものか、まったくわかっていませんでした。 ですので、営業部門からはアシスタントと言われたり、はたまた自分の手柄を持ち去るライバルと思われたりしていました。

また、販売代理店やお客様にも「アシスタントなのであれば、営業担当者と直接話をしたい」と考える人が多く、ポジションを認識してもらうのに苦労をしていました。

対外的には「営業ですが、内勤でお客様との窓口をします」というセリフで、ポジションを説明することが定着し、今では「インサイドセールス」でも通用するようになりましたが、社内では引き合いの初期コンタクトなのか、ナーチャリングなのか、その機能のどこを重視するのかが定まらないために、営業担当者からの不満を長く受け続けることになってしました。

インサイドセールスに向いていた人

インサイドセールスに向いている人の条件としては、『The Model(福田康隆/ISBN-13:978-4798158167)』や『インサイドセールス(茂野 明彦/ISBN-13:978-4798167541)』で営業センスや製品知識、ITツールへの抵抗のなさ、などが言われていますが、これらに加えて「必要な情報を漏らすことなく、的確に人に伝える能力」はかなり重要ではないかと考えています。

うまくいっているインサイドセールスの方は、オンライン上か紙かは人によって異なりますが、よくできるといわれるインサイドセールスはよくよくメモをとっています。 情報の中継地点であり、たくさんの情報を動かす彼らは重要な情報を確実に残すことが優れているようです。 単純に話した内容だけでなく顧客の言い回しの癖、おそらく顧客本人も気づいていないであろう社内用語、話し方から感じ取れる性格や相手の社内での立ち位置などを理解し、それに合わせた対応をするだけでなく、営業担当者にもきちんと伝えられるよう、記録を残しています。

インサイドセールスのつらいところ

まず、膨大な業務量を裁かないといけないので、1つのことに集中したい人には次々に相手を変えないといけないのがつらかったようです。 また、どうしても成果は周りからの評判のみになってしまい、わかりやすい成果指標である「売上」は営業担当者のものになりがちなので、数字で評価されたい人は長続きせず、フィールドの営業にうつってしまったり、辞めてしまったりしました。

また、商談が進むと営業担当者に商談を引き継いでいくことが必要ですが、営業担当者を上手にモチベートして、急ぐものは急ぎで対応してもらう必要があります。 急ぐからと自分ですべてを対応してしまうと、それが複数の商談になったとき、本来自分で対応するべき商談に手が回らなくなるので、いかに上手に仕事を渡せるかの工夫が必要です。

さらに、インサイドセールスはマーケティング部門からくる引き合いにも数多く対応することになります。 マーケティング部門がイベントや行われるたびにたまっていく名刺と引き合い候補の山。 これらすべてにコンタクトしていかなければならないので、イベントを開催するマーケテイング部門とはよく衝突していました。 ですが、時間の経過とともにコンタクトの優先順位がつけられるような記録の書き方を一緒に考え、また時期なども調整しながら、とってきた引き合いが無駄にならないようなコンタクト方法を模索してきました。

インサイドセールスの働く場所

インサイドセールスはテレワークが可能でどこででも働ける職種として注目されています。 自社のインサイドセールスの方々も、昔は毎日会社に来ていましたが、コロナを機にテレワークが始まり、出社が必須でない職種であることを満喫されています。

ですが、顧客訪問が発生しないので、電話とパソコン、インターネット環境があればどこででもできるはずの仕事という点ではその通りではありますが、定期的に会社やサテライトオフィスなど、同僚と一緒に働く時間を確保する必要があり、時に出社もしています。 セールスプロセスの長い部分を担うため、お客様と同じくらい、プロセスの前後にいる営業担当者やマーケティング担当者とのコミュニケーションが重要であるため、相手の状況を感じとっておくためです。

必要な出社頻度は商材や状況によって異なるとは思いますが、ときにはオフィスでもはたらく必要がありそうです。

まとめ

組織の立ち上げ時からインサイドセールの方と長く働いてきた経験をもとに、インサイドセールスが認識されるまでと、インサイトセールスに必要な素質について考えてみましたが

「インサイドセールスは営業アシスタントではないが営業でもない」

独自のポジションであると言えます。
これまでに無かった新しいポジションをインサイドセールス自身のみならず、周囲で接する人達がどう受け止めるかで、相乗効果を生み出すか、足を引っ張りあうかが決まってきます。 ぜひ、新しい概念を受け入れてくださいね。