粒子の凝集と分散
粒子の凝集・分散を制御するもの
粒子が分散媒(=粒子が分散するための溶液/溶媒)中で安定的に分散できるか否かは、さまざまな材料でその性能を決める重要な要素になります。
例えば、水溶性インクで簡単にインクの顔料粒子が凝集してしまったら、インクが出なくなり、文字が書けなくなってしまいます。このため、さまざまな材料でその分散状態は計測され、コントロールされます。この分散性に寄与する因子としてゼータ電位があります。
このページではゼータ電位について、その概念を説明していきます。
目次 水溶液中の粒子は電位をもつ ゼータ電位がわかると何が良いのか ゼータ電位は高いのに |
水溶液中の粒子は電位をもつ
粒子を水溶液にいれたら、その粒子の持つ表面の電位により、水溶液中にあるイオンが集まってきて電子の層を形成します。そしてその周りにも粒子の表面電位によって影響を受ける電気二重層が形成されます。
A:粒子表面
B:シュテルン層
C:すべり面
D:電気二重層
電気二重層とゼータ電位
この粒子表面(A)の周りにしっかりと取り巻く電子の層をシュテルン層(B)と呼び、その外側の層(D)が電気二重層です。電気二重層の外側は粒子の表面電位の影響を受けていませんが、実際に粒子と動きをともにするのはシュテルン層と二重層の間のすべり面(C)になります。このすべり面の電位をゼータ電位と呼びます。
粒子表面での電位はシュテルン層では周りの電子の影響により少し弱まります。すべり面ではその影響はさらに弱くなっています。
よく誤解されますが、粒子表面(A)が「-」だった場合、(B)は「+」イオンが集まってきますが、Aの表面電位が弱まるだけで、多くの場合はプラスマイナスが逆転しているわけではありません。
ゼータ電位がわかると何が良いのか
ゼータ電位は粒子を含む、分散系の安定性を知るための指標となると考えられています。ゼータ電位がプラスでもマイナスでも絶対値として大きかった場合、粒子と粒子が近づいたときに、電気的に跳ね返す力が強くなります。
このため、粒子は凝集せずに長く分散した状態を保つことができます。しかし、ゼータ電位は、周囲の分散媒環境により変わってきます。例えば、同じ粒子が存在する溶媒でもそのpH が違っていると、周囲のイオン環境が変わってきます。
酸性・アルカリ性が強い状態だと、ゼータ電位の絶対値は高くなり、その中間はゼータ電位がゼロに近くなります。どのpHでゼータ電位がゼロになるかは粒子・分散媒環境により異なりますが、ゼロになる点を等電点と呼び、等電点付近では分散は不安定になり、容易に凝集が起こります。また、同じpHでも塩濃度の異なる分散媒ではゼータ電位は異なります。塩濃度が高くなると、粒子表面電位の影響を受けるイオンがより近くに存在することになるので、電気二重層はより締った状態になり、キャップするイオンによってゼータ電位の絶対値は低くなります。このため、一般的に塩濃度が高いほど、分散は不安定になっていきます。
ゼータ電位は高いのに
等電点を超えてしまった場合
ところが、ゼータ電位が上昇した後も、凝集は残り続けます。ゼータ電位はその絶対値が低くなると反発力がなくなって凝集しますが、いったん凝集してしまった粒子を再び分散させるには弱い力になるので、それを再度分散させるには、ゼータ電位とは別の物理的な力または化学的な力が必要になります。
このため不安定な環境に一度さらされてしまうと、再び安定な環境にしても、粒子は凝集したままになることがあります。
粒子に修飾がなされた場合
また、ゼータ電位はあまり高くないのに、分散状態が長く保持されるケースがあります。その一つが立体障害で、ゼータ電位とは異なる機構で粒子の分散に寄与します。
例えば、粒子表面に高分子などで修飾を施した場合、粒子が作り出す電気二重層の外側にも高分子が出てしまいます。
この時近傍する粒子の距離が近づいた時も、それぞれの粒子に修飾された高分子がお互いの接近を妨げるため、粒子はそのゼータ電位に関わらず、静電力とは別の物理的な反発力をもち、分散が安定していきます。この反発力は、立体的に起こるため、立体障害とも呼ばれます。