デジタルPCR装置

はじめに

突如職場で購入を検討することになったデジタルPCR装置。

とりあえず、高感度だという触れ込みだけど、何を買おう、どうやって使いこなそう・・・・?

そもそも本当に買う必要があるのか、今あるPCR装置ではなぜだめなのか・・・

「この装置買ったのだれ?」と言われたくない、買った後も長く使い続けられる設備にしたい・・・

ということで、まずは遺伝子検査でよく使われている他のPCRとの原理的な違いをまとめてみました。

PCRは何をしているのか
リアルタイムPCRとの違い
何故デジタルといわれるか
何故デジタルPCR装置は高いのか?
まとめ

PCRは何をしているのか

コロナ検査ですっかり有名になったPCRですが、元の鋳型となる遺伝子配列を増幅させていくための技術です。PCRの解説は非常に詳しい教科書がたくさんありますし、大枠は高校生が学ぶ内容になっていますので、詳細を知りたい方は教科書をご覧いただければと思いますが、ここではざっくりと何がどうなっているのかを説明します。

まず、増幅させたい遺伝子(鋳型・テンプレート遺伝子)を含むサンプルに対して、始めに遺伝子を増やすために必要なプライマー、その後遺伝子を増やしていくための材料(dNTPs)、反応を進めるのに必要な酵素(DNAポリメラーゼ)などを追加します。
 

増幅させる遺伝子であるDNAは、通常2列の分子鎖が引っ付いた状態で存在します。

この2本鎖になっているDNAに熱をかけるとDenatureが起こり、1本ずつのDNA鎖に分かれます。ここで温度を少し下げると1本鎖になっているDNA鎖にプライマー

また、このあとDenature温度ほどではなく、少し温度を上げることで追加で投入している材料(dNTPs)を使って2本鎖となるべく、伸長(Extension)が進みます。

遺伝子が増幅する

そして、2倍になったDNAは再び温度をかけることで、Denatureを起こしますので、先ほどと同じ順に温度のサイクルを回していくことで、DNAが倍々に増えていきます。(増幅効率が1の場合)

PCRサイクル
遺伝子は倍々に増える

増えた遺伝子を検出するのに最も歴史ある手法は、電気泳動です。増えた遺伝子を含んだ溶液を回収して穴の開いたゲルの中に流し込みます。

そしてそのゲルを泳動層の中で10分から15分電気泳動すると、
ゲル内に分離されたPCR断片は肉眼では見えないので、光を当てるなどしてその蛍光を検出します。
 

増幅させた遺伝子はゲルに入れて電気泳動することで、その鎖長毎の断片として分かれる
電気泳動後のゲルは光らせてバンドを確認する

この方法は単にPCRともこの後出てくるリアルタイムPCRやデジタルPCRと区別するためにコンベンショナルPCR、あるいはCR反応を終えてから検出を行うためエンドポイントPCRともいわれます。

リアルタイムPCRとの違い

PCRで定量と言えば、リアルタイムPCRが最もよく使われています。新型コロナウイルスの検査に使われたPCR装置も、ほぼこのリアルタイムPCR装置です。

リアルタイムPCR装置外観

上述のPCRでは、増幅反応ののち、マイクロピペットで反応液を取り出し、ゲルに移し替えて電気泳動をする必要があります。しかしこの増幅した遺伝子が含まれる反応液を取り出して・・・の作業は、失敗してこぼしたりすると、そのあとの掃除がものすごく大変ですし、電気泳動のためのゲルの準備、泳動の待ち時間、撮影、終わった後のゲルの廃棄と手間暇がかかります。

そしてここまでやっても遺伝子の鋳型量が少なく、PCRの増幅が足りなかったということになればゲルが光ってくれない、ということもありますし、遺伝子を光らせるために一般的に使われるエチジウムブロマイドは発がん性物質です。

リアルタイムPCRでは、増幅させる試薬に蛍光色素を組み込みますので、反応に必要な温度を制御することで、増幅反応が起こり、それに伴って蛍光が発せられるようになります。検出のための蛍光試薬の仕込み方はいくつかの手法がありますが、いずれも遺伝子が増幅すると、蛍光量が増加します。

遺伝子の増幅はどのPCRも同じ
PCR反応(=遺伝子の増幅)時間と蛍光量

リアルタイムPCRで時間を追ってみていくと、遺伝子の増幅によって徐々に蛍光量が増えていき、機器側で検出できるようになります。そしてやがて指数対数的に検出される蛍光量が増えていき、やがて蛍光量の増加がストップします。

PCR反応は反応が起こる場で反応に必要な材料が存在し続ける限り、永遠に続けられます。ですが、実際には増幅に必要な材料は徐々に使われていくので、最終的には材料が枯渇して反応が進みづらくなっていきます。また、ある一定以上に遺伝子量が増えると、増えすぎた蛍光では機器の検出器がサチュレーションを起こしてしまい、あるところで最大の蛍光値となります。最大値を超えてしまうと遺伝子量はわからなくなってしまうので、時間で増大する蛍光量をグラフ(増幅曲線、Amplification curve)にして一般には最も増幅が大きくなる時間を比較していきます。PCRサイクルはそれぞれプライマーなどの種類によって最低な反応時間が異なるので、都度サイクル時間を設定する必要があります。このため、時間はサイクル回数に置き換え、何サイクル目で変化が極大になるかをCt値として表現し、検量線や検体間の比較を行います。

つまり、リアルタイムPCRではその増幅による蛍光値の変化をリアルタイムに検出し、解析。その増加度合いを既知の濃度の標準物質でとった検量線と比較して、サンプル内に含まれる遺伝子量を算出します。

しかし、ここで気を付けないといけないのは、PCRによる増幅は倍々でおきますので、その定量性はわりとざっくりとしたものになってしまう点です。ちょっとCt値がずれただけでも倍半分の差が出てしまうのです。そしてCt値が1ー2程度ずれてしまうことはかなり頻繁に起こりえます。

一方デジタルPCRでは、サンプルを数1000から数万という大量の小部屋(=パーティション)に分けて遺伝子の増幅を行い、蛍光値の変化をエンドポイントで検出して解析。その増加について、統計学的に計算してそのサンプル内に含まれる遺伝子量を算出します。

サンプルを小部屋に分けることで、各小部屋内ではバックグラウンドに対する目的の遺伝子の濃度が上がり、検出限界が低くなるため、高感度な測定ができるようになります。

何故デジタルといわれるか

デジタルPCRがデジタルと言われる理由は、その解析方法にあります。

遺伝子の増幅に合わせて、検出できる蛍光量が徐々に増えてくるという点では、デジタルPCRもリアルタイムPCRと同じです。しかし、デジタルPCRでは蛍光量の変化度合いを見るのではなく、増幅反応が進み切り、蛍光の発生ができった最終地点の蛍光量で判断します。

デジタルPCRでは、各小部屋ある蛍光量のところを閾値として、それ以上の蛍光値になった場合にその小部屋を+(増幅あり=遺伝子あり)として、それ以下の場合を-(増幅なし=遺伝子なし)として分類します。そして同じ処理を多数の数1000~10,000以上の小部屋に対して実施していきます。

その+-はポアソン分布(※)で統計的に処理され、+となった小部屋あたりの標的分子のコピー数を算出します。

このため、デジタルPCRは絶対的な定量性があると言え、標準物質を使って検量線などを引かなくても、濃度情報が正しく表示されることになります。

※ ポワソン分布:ある一定期間内に与えられる事象の数の確率を表す統計モデル。デジタルPCRでは各小部屋で独立してランダムに発生する+-の判定についてプラスとなりうる確率をポワソン分布で補正して、コピー数を正確に算出します。

この時、小部屋の数が多くなると結果の精度が増し、定量のダイナミックレンジも広くなります。

何故デジタルPCR装置は高いのか?

2024年1月現在、PCRを行う装置はPCR(コンベンショナルPCR、エンドポイントPCR)、リアルタイムPCR(=qPCR)、デジタルPCR(=dPCR)がありますが、それぞれ全く異なる価格帯になっています。

デジタルPCR装置の搭載技術と価格差

コンベンショナルPCR装置では、単純に増幅反応に必要な温度制御ができれば、データの解析までをすることはありません。検出については、装置から増幅産物を取り出して電気泳動をおこなったり、分光光度計で分析したりしますので、装置自体に検出機構や解析不要でした。その代わり、この遺伝子がこれくらいの量含まれている、という定量性はコンベンショナルPCRにはありません。電気泳動したら、あるバンドが濃く見えて別のバンドは薄く見えたりするじゃないか、と思われる方もいるかと思います。おそらく、濃く見えているバンドは増幅されたDNA量が多いと思いますが、それはどんな遺伝子かわかりません(一緒に泳動したマーカーからどれくらいの長さの遺伝子かは推測可能)し、バンドの濃さも相対的なものであって、絶対量を算定することはできませんし、別のゲルにあるバンドとその濃さについて比較することは無謀と言えます。

しかし、リアルタイムPCRになってくるとリアルタイムに増加してくる蛍光量を検出し続けないといけないので、蛍光を検出するための光源と検出器が装置に搭載されている必要があります。また、解析ソフトウェアについても、PCR装置ではほぼ不要だったものが、リアルタイムPCRでは専用の解析ソフトウェアが必要です。PCRサイクルごとに変化していく蛍光強度をとらえ、バックグラウンドを計算し、増幅の進行度合いがわかるいくつかのパラメータを算出します。

さらにデジタルPCRになると、それぞれの小部屋で起こった蛍光値の増大についての算定、解析などが必要になるので、より一層複雑な機構・ソフトウェアになり、高価になってしまうようです。

これに加えて、生産台数の問題があります。生産される台数が少なくても、生産に設備投資は必要ですし、開発や設備投資の費用改修を少ない販売台数で賄わなければなりませんし、台数部品などの調達も少ロットで買うので調達コストも割高になってしまいます。また、デジタルPCR装置は国産のものがない、というのも、円安の昨今では価格が高い理由の1つかもしれません。デジタルPCRも国産品が登場し、普及が進めば徐々に安くなっていくことと思われます。

ランニングコストは?

それぞれのPCRでのランニングコスト(=1回の反応当たり)もずいぶん違います。

PCRやリアルタイムPCRでは、試薬代がそのコストのほとんどを占めますが、デジタルPCRでは小部屋を作るための反応場を持つ専用チップなどが必要になり、消耗品代が試薬代と同程度(メーカーによる)必要になります。

スループットは?

PCRやリアルタイムPCRは反応液を必要な温度にすれば、30分~1時間程度で自動的に増幅されていきますが、デジタルPCRは事前に小部屋をつくる必要があります。
このための時間は機器によって異なりますが、15分~2時間程度、PCR反応の前に必要になります。

まとめ

本記事では仕事でデジタルPCR装置を購入するにあたって、3つのPCRについて違いを確認してみました。

定量性や感度の面ではデジタルPCRに分があるようですが、スループットのテント装置もランニングコストも高くなるため、当分の間は目的に合わせた使い分けが必要そうです。

デジタルPCR装置の比較に続く