デジタルPCRにも種類があった

デジタルPCR装置の違い

デジタルPCR装置は、PCRの反応場となる小部屋を作るセパレーション技術の違いで、ドロップレットタイプとプレートタイプに2分されます。

項目ドロップレットタイプ (ddPCR)プレート(チップ)タイプリアルタイムPCR (qPCR)
原理油中に水滴(ドロップレット)を作成し、個々の水滴で反応。微細加工されたウェル(チップ)にサンプルを分注し反応。PCR増幅過程で蛍光シグナルをリアルタイムで測定。
感度・精度非常に高い。低濃度、レアミューテーション検出に特に優れる。非常に高い。ドロップレットに匹敵、またはそれ以上。デジタルPCRに劣る。低コピー数やレアミューテーション検出に限界。
ランニングコストドロップレット生成試薬、PCR試薬など。比較的ハイスループットでコストを抑えやすい場合も。専用チップ、PCR試薬など。メーカーやシステムによる。オールインワン型は簡便だが専用試薬に依存。比較的安価。
機器のコストドロップレット生成、サーマルサイクラー、解析装置と複数必要で高価。オールインワン型もあり。初期導入コストは高価な部類。デジタルPCR装置に比べて、比較的安価。
検査にかかる時間約2〜4時間 (サンプル準備、ドロップレット生成、PCR、解析を含む)約2〜4時間 (サンプル準備、チップロード、PCR、解析を含む)約1〜2時間 (サンプル準備、PCR、データ解析を含む)
操作性ドロップレット生成プロセスが必要で、やや手間がかかる場合がある。チップにロードするだけで完結するシステムもあり、簡便化が進んでいる。比較的簡便。
コンタミネーションリスクドロップレット生成時にサンプルが空気中に曝される機会がある。密閉されたチップ内で処理が進むため、リスクが低い傾向がある。サンプル調製やプレートロード時にリスクがある。
主な用途液体生検(ctDNA)、遺伝子コピー数変異、病原体定量、遺伝子編集効率評価など。液体生検(ctDNA)、遺伝子コピー数変異、病原体定量、遺伝子編集効率評価など。遺伝子発現解析、SNP解析、病原体検出・定量など。

日本でデジタルPCRを販売しているのは、大きく3社ですが、そのうち1社がドロップレット、もう2社がプレートタイプになります。もともとはドロップレットタイプのほうが歴史もあるようですし、できればドロップレット方式のものが欲しいのですが、どうしてもドロップレットを装置に作らせる部分が必要なので、機器そのものがちょっとお高くついてしまうのが悩ましいところです。また、ドロップレットは機械的に均一な反応場を大量につくることができるのですが、その分1回ごとの測定にも時間は数10分から1時間以上かかりそうです。さらに、今後いろんな人が様々な検体を扱おうとしたときに、いつも同じドロップレットサイズになってくれるのか、実験を進めるにもなんだかコツがいりそうです。

一方で、プレートタイプは一気に小部屋に反応液を物理的にねじ込むようです。機械的に液を入れてシールすることで密閉した小部屋を作ります。これは反応場を作る時間としては、数分程度なので、リアルタイムPCRとそんなにかかる時間は変わらなさそうです。ということは実験をサクサク進めるにはプレートタイプの装置のほうが優れているような気はしますが、シールを張り付けるときにウェルとウェルが混ざったりはしないのでしょうか。。。

今回は、検体中に含まれる遺伝子量を正確に計測したい、というのがデジタルPCR導入の目的でした。そして、それなりにサンプル数も増えてきそうなので、誰でも簡単に使えてデータに差が出ないようにしていきたいです。

機器の価格

ドロップレット型はドロップレット型はドロップレットを作る機構が装置側に搭載されることになります。そうすると装置側にはドロップレットを作る部分、PCR反応の機構、検出のための光学系の機構が搭載されており、その価格は高価になります。反対にプレート型の装置はプレートが消耗品になるため、装置側はPCR反応と検出ができればよく装置側にはふたつの機能を持たせれば良くなります。

そうすると、ドロップレット型の装置がどうしても高価になることは理屈上仕方がないのと思われます。

ですが、3社見積もりを取ってみたところ、なんとなく原理上決まってくる価格、というよりは戦略的に価格設定をしているようで、どうやらあまり機構の複雑さや部品点数とはかかわりがなさそうです。

ランニングコスト

ランニングコストも馬鹿にできません。リアルタイムPCRでは、1検体あたり数10円~のPCRチューブに入れて反応ができましたが、各社それそれの装置の構造に合わせたプレートやチップと言われるものが必要になってきて、それが数100円~1000円を超えることもあるようです。チップやプレートの構造によって製造コストも異なるでしょうし、

製造数量によってもコストは変わってくるはずなので、しっかり計算してどの装置を買うか、選定しなけれななりません。

まず、チップ・プレートの構造から発生するだろうコストについて考えてみます。ドロップレット方式の装置ではチップにサンプルを入れてセットします。反応場となるドロップレットはオイルと試薬のエマルジョンでできるものなので、チップの構造そのものはそれほど複雑な必要はなく、ドロップレットが溜まるスペースがあれば問題ないでしょう。また、試薬もドロップレット型には高くはなさそうですが、PCR反応試薬以外にオイルが必要なようです。

逆にプレートタイプではプレートそのものに小部屋を作る必要があり、プレートに複雑なマイクロ流路を持たせることになるので、その単価は高くなりがちです。

また、消耗品は大量生産するので、構造にくわえて製造ロットの大きさも無視できません。生産規模が大きいほうが安くまた安定した消耗品を入手し続けやすくなります。ただ、日本のメジャーな3社については、いずれもグローバルの販売網をもっており、十分な製造規模になっているはずなので、安定供給の心配はあまり考えず、コストと単純な使い勝手で検討できそうです。

あと、ドロップレット型はどうしても投入した試薬のうち結構な割合(3ー40%)がドロップレット化できないので、投入した試薬に対してロスが多いという点もありそうです。

試薬との相性

デジタルPCRは装置各社から酵素の入った試薬が各種発売されていますが、リアルタイムPCRとは異なり、それぞれの装置に合致した試薬を使用し、反応場に確実に試薬を流し込み、プレートタイプ装置では空の小部屋を作らない、ドロップレットタイプの装置ではドロップレットを均一な大きさで作る必要があります。このためには試薬の粘弾性といった物性の最適化がされているため、他社製の安い装置が使えなくなっています。

もちろんPCR試薬でもあるので、酵素の反応性や検体由来の反応阻害耐性があるなど、試薬としての性能が高いことは必須条件なので、測りたいものとの相性がありそうです。

このようにいろいろ検討してみましたが、やはり使い勝手は好みがあるので、よさそうな装置については測り比べてみたほうがよさそうです。