外資系企業が日本に進出する際、その企業にとっては今あるビジネスを知らない土地で展開することになります。 外資系がビジネスを日本で始める際の始め方、展開の仕方、内部のオペレーション、お客様との対峙についての経験を、アンゾフの成長マトリクスの1つである新市場開拓の例として大学生(2回生)にお話しする機会があったので、少しご紹介します。

このケースでは、商材としてB2B、企業の工場や研究開発などで使用されるカメラのようなセンサーを扱っているメーカーになりますが、足掛け15年以上をかけ、無事に日本市場で成功を収めることができています。

始めの第一歩は

外資系企業は、日本市場であるかどうかにかかわらず、新しい国でのビジネスに参入する際に、2つの販売戦略のどちらかを選びます。代理店販売方式と直接販売方式です。

代理店方式では

企業はその地域での販売を担ってくれる代理店(Distributor)を探し、契約します。

外資系企業にとっては、不動産や設備投資などの面倒がなく、現地でスタッフを雇う必要がないことは大きなメリットです、より少ないコストでビジネスを始めることができます。 このため、知らない土地で事業を展開するには、専門知識を持つ代理店を使うことが一般的な販売方法です。

ただし、代理店に本来の利益のかなりの部分を渡す必要がある点には注意が必要です。 また、現地での重要な情報は代理店に蓄積しており、メーカーは自社の製品に対して代理店のフィルターのかかった市場の情報しか得ることはできない、という大きな問題もあります。

直販の場合

その地域で自分たちのスタッフを雇う必要があり、オフィスや倉庫なども自分たちで準備をする必要があります。それには多くの時間と費用が必要です。その代わりに、代理店に支払うパーセンテージは必要なく、現地の情報を直接入手することができる。

このケースでも10年間は代理店販売体制をとり、売り上げが大きくなってきたところで直販体制を整えましたが、多くのメーカーでは最初は代理店販売から始めて、ある程度ビジネスが大きくなってきた後に直販体制に移行しているようです。

勿論、資金が潤沢にある大企業だったりすると、いきなり直販体制を組むこともあります。

代理店販売と直接販売

ローカライゼーションとグローバリゼーション

社内オペレーション

ビジネスがある程度成功し、直販体制を整えたのち、本当の意味で新市場開拓を成功させるためには、ローカルの営業を中心とした組織を編成するだけでは不十分です。

通常、本社はグローバルで統一されたオペレーションを望みます。 その理由としては、彼らはそのやり方で少なくとも1か国以上の国でビジネスに成功した体験を持っているからです。しかし、そのようなグローバルで統一され、アレンジのないビジネススタイルは、日本の商習慣と合わないことも多く、日本市場では拒否されてしまうこともしばしば起こります。

一例をあげると、日本の販売プロセスでは、多くの場合、複数の商社や卸など中間業者(Dealer)が関与しています。このケースの業界でも中間業者の営業担当者は毎日のようにエンドユーザの元を訪れ、挨拶し、御用聞きのような(三河屋のサブちゃんのような)関係を築いています。エンドユーザもたくさんの商材を取り扱い、毎日来てくれる彼らを買い物の検索エンジンのように使い、問い合わせの代行を頼みます。このため、何かの商談の種はDealerが初めに知るケースが多く、もしDealerを使わなければ、多くの販売機会を見逃すことになってしまいます。

しかし、本社としては、折角投資して直販体制を整えたのに、Dealerに対してまたパーセンテージを支払うことの意味を理解できません。そこでローカル側は、Dealerではなく商流の情報源(Finder)に対して支払うこと、そして販売プロセスのコントロールは自分たちで行うこと、販売プロセスやサポートを通じて顧客と良好な関係を構築すること、顧客や市場の情報は自社に正しく蓄積していくことを説明し、最終的に本社はDealerを使うことに同意してくれました。

もちろん、すべてのオペレーションをローカライズできるわけではありません。

日本のオフィスの側では、顧客理解の方法を本社と同じ方法に合わせ、本部と同じビジネスフレームワーク、同じシステムを使って、日々の報告や議論を行うようになりました。お客様を理解し、マーケット情報をタイムリーかつ正確に手にすることができれば、そしてきちんと売上予算が達成できていれば、不信感は払拭できるようです。

ローカライゼーションとグローバライゼーションのバランスがうまく取れたことで、販売体制については安定しました。

販売戦略

組織を構築し、販売体制が安定したら、実際に製品を売っていかなければなりません。新しい市場開拓を成功させるために、私たちには2つの強みがありました。

ひとつは、グローバルな製造販売ネットワークです。

このケースの企業では世界中に拠点を持ち、同じ製品を販売しています。そのため、世界中の工場や研究所のデータを同じ機材で解析し、データから得られる知見を世界中で活躍するお客様に共有できる価値を提案することができます。日本の競合他社は、海外拠点が少ないところが多いので、この点では競合他社よりも優位性がありました。

また、このケースでの製品は、同じ製品でありながらお客様一人ひとりの使用用途に合わせて細かい製品の設定をカスタマイズする必要があります。正直なところ、日本企業は海外企業に比べてカスタマイズに対する要求が細かい傾向にあります。こうした要求に応えるため、専門知識を持ったエンジニアが、販売競争からアフターセールスまで長期的にサポートしています。日本の競合他社は営業が担当し、同じようなエンジニアがいたとしても製品に特化したものではありません。だから、この点も成功のための大きなアドバンテージです。

考え方が全然違う、その理由

日本企業  外資系企業
本社は日本本社は海外
日本は最重要拠点日本は数ある拠点の1つ
ほとんどの経営陣が日本企業経営陣に日本人が少ない、またはいない
日本企業と外資系企業

外資系企業に対して、何かイメージはありますか?

ー給料が高い? ハードワーク? 流暢な英会話?

どれも当てはまっていましたが、ポジション次第だと思います。外資系企業でも英語を使わなくてよい仕事もありますし、残業ゼロの仕事もあります。給料もかなりお安いポジションも存在します。

一番の違いは、ビジネスの判断であると思います。全社的な大きな判断をしているのは日本人ではない、ということです。日本の事情を考慮はしてくれるかもしれませんが、最優先に考えているわけではありません。時に現場には冷たいと感じる判断を下されることもありますが、グローバルの全体最適を考えた判断であり合理的な判断をしています。

また、会社にもよると思いますが、外資系企業は特に投資・回収がスピーディです。これは判子を押す人の数の差だったり、判断基準が明確であるからかもしれません。

まとめ

新しい市場で成功するためには、

・代理店販売からスタートし、直販体制に移行させるケースが多い。

・現地のビジネス文化を理解し、日本の場合では日本の商習慣に合わせて行動する。

・販売プロセスにおいて十分なサポートを提供し、お客様が快適に過ごせるようにする。

おまけ:アンゾフの成長マトリクス(Anzoff Growth Matrix

このテーマをビジネスフレームワークで考えると、アンゾフの成長マトリクスの中の新市場開拓の話になります。

因みに、アンゾフの新市場開拓は、既存の製品で異なる地域に進出する、というのと、同じ製品を異なる顧客層に販売する、という2パターンがあります。

前者はここまででお話してきたような外資系企業の日本進出や、その逆の日本企業の海外進出、あるいは地方の有名店・人気店の東京進出などがあげられます。後者の例だと、スイッチOTC医薬品の展開などがあげられます。

また、キャノンのカメラ事業が昔ながらのフィルムカメラからデジタルカメラに製品をシフトさせたのは、新製品戦略(New product development、新製品×既存市場)と言えますし、富士フィルムがフィルム事業から化粧品・医薬品事業に進出したのは多角化戦略(Diversification、新製品×新市場)と言えます。