本稿では、ワインの簡単な作り方を紹介します。

とはいっても、「ぶどう」からではなく「市販のぶどうジュース」からの作り方であり、成功をお約束するレシピではなく奮闘記に過ぎません。でも、この造る喜びをお伝えしたい。

自家醸造に関する注意:冒頭から冷や水のような注意書きです。

<日本国の国税庁のWEBより抜粋>酒類を製造する場合には税務署長の免許が必要となります。
 酒類とは、酒税法上、アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることのできるもの又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含みます。)をいい、当該製品により製造されたものがアルコール分1度以上の飲料となる場合は、酒類製造免許が必要になります。 酒類の製造免許を受けないで酒類を製造した場合は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるほか、製造した酒類、原料、器具等は没収されることになります。<根拠法令等:酒税法第7条、第54条>

準備する物:こんなものが必要です。参考にしてください。

  • ぶどうジュース :ウェルチ(グレープ100)(800mL)を用いました。
  • ワイン用酵母 :RED STAR Premier Rougeを用いました。(1g使用)
  • 空の容器 :炭酸飲料のペットボトル(1000mL)を用いました。
  • エアロック :Katigan 発酵エアロックを用いました。
  • 濾過フィルタ :コーヒーの紙フィルタを用いました。
  • ろうと
  • 空き瓶
  • 砂糖 :自家製ワインのアルコール分1度未満とする場合には不要です。

エアロックとは、外部からの雑菌を含む空気の流入を防ぎ、アルコール発酵の際に出る炭酸ガスを抜く機材です。

発酵用エアロックの例
https://www.asahiinryo.co.jp/welch/lineup/

全体の工程:

非常に簡単で、ぶどうジュースを酵母でアルコール発酵させるだけです。全行程は以下のとおりです。

  • 手洗いと清潔な環境の用意
  • 器材の消毒
  • 酵母の予備発酵
  • ぶどうジュースへの酵母添加
  • 初期発酵:2~3時間
  • 発酵:1~2週間
  • 濾過
  • 瓶詰め

主要な行程の説明の前に皆様の関心の高いアルコール度数の制御に寄り道をします。

アルコール度数の推定方法:

ウェルチ(グレープ100)の成分表によれば炭水化物は100gあたり14gとなっています。

ウェルチ(グレープ100) 栄養成分(100g当たり) 
エネルギー(kcal) 56 
たんぱく質(g) 0.4 
脂質(g) 
炭水化物(g) 14 
食塩相当量(g) 0~0.05 
リン(mg) 約10 
カリウム(mg) 約40 
その他表示成分 ポリフェノール 126~324mg 

よって、ウェルチ800mL(800mgとする)あたりの炭水化物は112gあり、すべて糖質だとすると、糖度は、112g/800g=14度です。

出芽酵母による発酵の結果、ざっくり糖の約半分に相当する量がアルコールになるので、すべてアルコール発酵させてしまうと、7度のアルコール飲料ができてしまいます。よって、我が国の法律に適合するには、発酵を途中で止めるか、ウェルチの糖度を下げるよう希釈して発酵させる必要があります。

さて、酒類製造免許を持っていて、アルコール度数が12度のウェルチワインを得るにどうすれば良いでしょうか。糖度を24度にすれば良いので、106gの砂糖を加えて、酵母によりフル発酵させれば良いです。

((112g+106g)/(800g+106g))×100=24度

たくさんの砂糖ですよね。酵母を加える前に、砂糖を加えたぶどうジュースを十分攪拌しておきます。酒類製造免許を持ってるなら、ですよ。

主要な行程の説明に戻りましょう。

酵母の予備発酵:

ぶどうジュースが30℃~35℃くらいあるのであれば、このプロセスは不要です。いきなり酵母をぶどうジュースに放り込めばOKです。そうでない場合は、消毒済みの小皿に、砂糖を加えたぶどうジュース50m程度を入れ40℃くらい(てきとー、正し45℃を越えないように)にし、そこへ添加する酵母をすべて加えて軽くまぜ、10分程度おきます。 ワーッと酵母が増えているように見えます。(たぶん、増えてます。)

初期発酵:3~4時間

液温を30℃くらいにして4時間くらいキープしたいので、容器に使い捨てカイロを貼ったり、ストーブの前に置いたりします。

予備発酵した酵母を添加して、2時間くらいは何も反応が無いように見えますが、2時間を越えてくると、小さな気泡が発生し、やがて写真のようになります。この状態で2時間キープできれば、あとは、液温が下がっても大丈夫です。発酵が続きます。

発酵:1~2週間

16℃未満にならないよう、使い捨てカイロを貼ってタオルやプチプチでぐるぐる巻きにしましょう。そして、一日数回、容器を揺すって攪拌します。

やがて、気泡が出なくなり液面が落ち着きますので、それが攪拌完了の合図です。

濾過:

”ろうと”と、コーヒー用紙フィルタを用いました。この用途にするには目が粗いのか、あまり濾過されませんでした。

試飲: 

第一号ワインが自宅で誕生しました。 できたてを即飲んでみます。 

ぶどうジュースとワインの間のような味と香りです。ワインだ!と大喜びするレベルではありませんが、アルコール飲料の一種として十分アリです。

ただ、舌を刺すようなピリピリとした強い酸味があるのが気になります。

リンゴ酸:

ネットで調べた結果、「舌を刺すようなピリピリとした強い酸味」の正体は、リンゴ酸のようです。リンゴ酸はリンゴだけではなく各種果物に存在します。リンゴ酸はぶどうが熟す過程で減少し、温暖地の完熟ぶどうには少ししか含まれていないけれども寒冷地の完熟ぶどうには多すぎるのでリンゴ酸が残るとのこと。発酵過程でもいくらかリンゴ酸は消失するようです。ピリピリの正体はリンゴ酸だと考えて良さそうです。いやぁ、カビでも生えたのかとドキドキしていました。

マロラクティック発酵:

アルコール発酵はアルコールが生成される発酵であり、酵母が糖分をアルコールと炭酸ガスに変える、つまり、今回の実験で起きていた作用です。一方、マロラクティック発酵は乳酸菌がワイン中のリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスにする発酵のことで、この発酵ではアルコールは生成されません。リンゴ酸(Malic acid)が、乳酸(Lactic acid)に変化する発酵(Fermentation)ということで、Malo-Lactic Fermentationと書き、M.L.Fと略すようです。 このM.L.Fが起きれば、ワインの中に含まれる酸味の鋭いリンゴ酸が、おだやかな乳酸に変わるとのことのなので、この発酵を起こせばピリピリが軽減するのではないかと考えました。

乳酸菌の入手:

これは困りました。今も困っていますが。

ヨーグルトを作る材料やサプリだと、乳酸菌以外の素材が大量に入っています。ワインじゃない物に仕上がってしまうことを恐れて、これらは回避しました。

困っていたところ、SAPPOROから乳酸菌入りワインが発売されていましたので、これを少量加えてみてはどうかと考えたのです。

ポリフェノールでおいしさアップの赤ワイン&乳酸菌プラス

ところで、乳酸菌なら何でも良いのでしょうか。

調べてみると、どうやら、マロラクティック発酵にかかわる乳酸菌は次の2つと分かりました。

Oenooccus oeni や Lactobacillus plantarum です。

うーん。乳酸菌の種類まで指定して探さないと行けません。それに、これ、個人で手に入りますかねぇ。作っている/取り扱っている企業はネットで見つかりますが、個人、しかも数グラム欲しいだけの人に販売してくれると思えません。海外にも目を向けてみましたが、難航しました。 で、たまたま Lactobacillus plantarumが含まれたサプリ(マルチ乳酸菌Prime)が見つかりました。それ以外の乳酸菌やビフィズス菌、そしてデンプンも含まれますが、他のサプリに比べれば乳酸菌以外の材料は少なそうですので、試してみることにしました。

実験:

3本つくります。同じプロセスでアルコール発酵させますが、その後は、何も添加しないロットと、乳酸菌入りワインを少量加えたロットと、乳酸菌を加えたロットの3本を作り、ピリピリの軽減が起こるか比べてみます。それぞれ、F0101、F0102、F0103と名付けました。

アルコール発酵中(初期発酵)

マロラクティック発酵は、アルコール発酵とは異なり、ぶくぶくと気泡が出てこず、見た目には非常に分かりづらいそうです。確かにこの実験でも見た目いは分かりませんでした。↓こちら

正しくは酸度を測りながらマロラクティック発酵の進捗を見るのだと思いますが、酸度を測定できる器材を持ってないので、マロラクティック発酵の始まりと進捗の確認は無しに、乳酸菌添加後1週間放置でこの工程を終了としました。

結果:

変わりません。。なんということでしょう。

3種とも同じ味です。

「舌を刺すようなピリピリとした強い酸味」で「ぶどうジュースとワインの間のような味と香り」のワインが3本できあがってしまいました。 これはこれで、自家製ベーコンや、お好み焼きか焼き肉のお供にしたいと思います。

次回は、リンゴ酸が少ないのを期待して別のぶどうジュースを試してみるのと、乳酸菌の再調査を進めたいと思います。